
ハワイ島の観光ガイドを開くと、必ず出てくる名前があります。
火の女神「ペレ」――キラウエア火山に住むと信じられている、ハワイの人々にとってとても身近な神様です。
でも、「なぜ火の女神なの?」「オヒアレフアの伝説ってどんな話?」「今もハワイの人はペレを信じているの?」と気になったことはありませんか。
ペレの物語は、単なる昔話ではなく、ハワイの島々そのものの成り立ちや、自然と共に生きる人々の暮らしと深く結びついています。
この記事では、ハワイ州観光局の公式ラーニングサイトなどをもとに、ペレの出自・旅路・愛と嫉妬の物語、そして現代まで続く信仰までを、やさしく整理していきます。
読み終える頃には、次にハワイ島の写真を見る目が少し変わっているはずですよ。
ペレはキラウエア火山に住む「火の女神」

ペレ(Pele)は、ハワイ神話に登場する火山と火の女神です。
ハワイでは、火山活動のすべてはペレの働きによるものと考えられてきました。
彼女が怒れば火口は激しい火を噴き、流れ出す溶岩は森や集落を飲み込む――そんな畏れとともに、島の人々はペレをまつり続けてきました。
その住処とされているのが、世界でも屈指の活火山として知られるハワイ島キラウエア火山のハレマウマウ火口です。
溶岩が煮えたぎる火口の奥に、ペレの魂が眠っていると信じられているのですね。
今もキラウエアが噴火するたびに、地元では「ペレが動いた」と語られることがあります。
ペレの出自とハワイに至るまでの長い旅路

ペレはハワイの島で生まれた神ではありません。
ハワイ州観光局の公式ラーニングサイト「アロハプログラム」によれば、ペレは「カヒキ(海の彼方)」と呼ばれる遠い土地からハワイへやって来たとされています。
母は豊穣の女神ハウメアで、その太腿から生まれ、たくさんの兄妹を連れてハワイの島々へ渡ってきたと伝えられています。
姉ナマカオカハイとの因縁
ペレがハワイへ来た理由も、なかなかドラマチックです。
伝承によれば、ペレは姉で海の女神ナマカオカハイの夫を誘惑してしまい、カヒキを追われたのだといいます。
この姉との対立は、そのままハワイでの旅の背景になっていきます。
島から島へ、火口を掘り続けた旅
ハワイに渡ったペレは、北西諸島からニイハウ島、カウアイ島、オアフ島、モロカイ島、カホオラヴェ島、マウイ島と、島から島へと移り住んでいきました。
そのたびに、永遠に燃える炎のための深い穴を掘り続けたと伝えられています。
オアフ島のダイヤモンドヘッドや、マウイ島のハレアカラ火山の火口も、ペレが掘ったものだとされているのですね。
しかし、行く先々で姉ナマカオカハイの追撃を受け、マウイ島ハナの地でついに一度は敗れてしまいます。
それでも魂は消えず、最後にたどり着いたのがハワイ島のキラウエア火山ハレマウマウ火口でした。
島の並びをたどる旅路が、そのまま「島は北西から南東へと若く新しくなっていく」という地質学の事実と重なるところに、この神話の面白さがあります。
妹ヒイアカと悲恋「オヒアレフアの伝説」

ペレの神話でもっともよく語られるのが、妹ヒイアカと、恋人ロヒアウをめぐる物語と、オヒアレフアの伝説です。
いずれもペレの激しい嫉妬心と、そのあとの深い後悔が印象的に描かれます。
妹ヒイアカとロヒアウの物語
ある日、ペレは夢の中で若く美しい酋長ロヒアウと出会い、心を奪われます。
ペレは末の妹ヒイアカに、ロヒアウを連れてくるよう頼みますが、長旅の途中でヒイアカ自身もロヒアウに惹かれてしまいます。
二人がようやくハワイ島に戻ったとき、ペレは嫉妬に燃えて怒りの炎を放ち、愛するロヒアウさえも溶岩に飲み込んでしまうという悲しい結末を迎えます。
オヒアの木とレフアの花になった恋人たち
もう一つの有名な話が、オヒアという青年とレフアという娘の物語です。
ペレは青年オヒアに恋をしますが、彼はレフアへの愛を貫き、ペレの誘いを断ります。
怒ったペレは二人を焼き殺してしまいますが、のちに深く後悔し、二人を一本の木に姿を変えます。
たくましい幹はオヒア、赤く可憐な花はレフア――こうして、ハワイの森を彩る「オヒアレフア」の木になったと伝えられています。
ハワイでは、オヒアレフアの花を摘むと雨が降ると言われることがあります。
それは、離ればなれになったレフアを想って、オヒアが涙を流すからだ――そんな詩的な言い伝えが、今もハワイの人たちの中で生きているのですね。
今も生きているペレへの信仰
ハワイの島々にはキリスト教が広く伝わりましたが、それでもペレへの信仰だけは失われずに残っているとされています。
キラウエア火山という圧倒的な存在感を目の前にすると、そこに住む神を無視することは難しかったのでしょう。
今でも噴火が起きると、火口に花や食べ物が捧げられ、ペレへの祈りが続いています。
また、キラウエア周辺の地熱発電開発に対する反対運動の中で、「ペレの住処を傷つけないでほしい」という声が上がってきたことも知られています。
神話が単なる過去の物語ではなく、土地とどう向き合うかという今の問題にまでつながっているのですね。
観光客の間では、「ハワイ島の溶岩や砂を持ち帰るとペレの祟りがある」という言い伝えもよく知られています。
これはペレの怒り伝説(Pele's Curse)と呼ばれ、実際にハワイ島の国立公園には、返送された石や砂が世界中から届き続けているといわれます。
言い伝えの真偽はさておき、島の自然を持ち出さないというルールを守る、良いきっかけになっているのは間違いありません。
まとめ:ペレは「島そのもの」を体現する女神
ここまでの内容を整理すると、ペレというキャラクターは次のように捉えることができます。
- ハワイの火山と火をつかさどる女神で、キラウエア火山のハレマウマウ火口に住むとされる。
- もとは遠い「カヒキ」の地から来た神で、姉ナマカオカハイとの対立のなか、島から島へと旅をした。
- 妹ヒイアカと酋長ロヒアウの物語や、オヒアレフアの伝説に見られるように、嫉妬と後悔の感情がとても人間くさく描かれる神様でもある。
- キリスト教化のあとも信仰は消えず、噴火や自然開発をめぐって今も「生きている神話」として語られている。
ハワイの島々の並び、燃え続ける火口、そして森を彩る赤い花――そのすべてに、ペレという名の物語が重なっています。
次にハワイ関連の写真や映像を目にしたら、ぜひ「あの向こうにペレの物語がある」と思い出してみてくださいね。
筆者のひとこと
ペレの物語で心に残ったのは、火山や海のような大自然を、ハワイの人たちが「怖い自然現象」ではなく、感情を持った一人の神様として受け止めてきた感覚です。
溶岩の流れる姿に怒りを見て、花の色に涙を重ねる――そうやって世界を見つめる目線は、私たちが日々の景色を見る目とはずいぶん違うように感じます。
ただ、ペレの神話には嫉妬や後悔といった、決してきれいごとでは片づかない感情もたくさん出てきます。
先人たちは、そういう人間の弱い部分も含めて自然や神にゆだねてきたのかもしれません。
私自身、自然の大きさの前に立つと、思わず手を合わせたくなる瞬間があります。ペレの物語を通して、そんな気持ちを大切にしたいなと改めて感じました。

